客論

「育休」で人生が変わる

長女が生まれたとき、一か月間の「育児休業」を取得した。

当時は大学病院で外科医として勤務していた。文字通り朝から晩まで働き詰め。休日も必ず病棟に行って受け持ち患者を診て回り、週末はほとんど毎週のように当直をしていた。もちろんきつかったが、他の医師も同じような毎日を過ごしており、それが当たり前だと思っていた。

子供が生まれ、ふと「育休取れないかな?」と思いついた。

大学病院勤務の男性医師が育休を取るなどまさに前代未聞。当時の上司に育休取得を申し出た際の「そんな法律があるのかね」という言葉が今も忘れられない。常々その上司は「自分は毎日病院に泊まり込んでいた。子供のオムツも替えたことがない」と豪語していたから無理はない。

何とか上司の許可を得、同僚医師に育休中の勤務調整をお願いした。意外にも「僕もやりたかったよ」「頑張って」などと応援してくれる声が多く嬉しかった。

そもそも私が外科を選んだ理由は「一番忙しいから」。人生の全てを仕事に捧げるつもりでいたし、実際その通りの毎日だった。

だが、子供が生まれ、その考えは大きく変わった。

先に子供を持っていた友人から「こちら側の世界へようこそ」と言われ、最初は意味が分からなかったが、今では実感を持ってよく分かる。子供が生まれるということは、「全く違う人生が始まる」ということなのだ。

育休中は、オムツ替えはもちろん、ミルクやり・入浴・着替え・洗濯物干しなど一通りのことは全部やった。留守番をして妻を美容室に行かせるのも大切な仕事。おかげで今でもベビーカーを押したり、おんぶしたりして近所のスーパーに行くのも全く平気。そんな姿を患者さんに見つかることもしばしばである。

そして実感したのは、「やっぱり母親は偉大」ということである。専業主婦も大変だし、働くママさんとなるとさらに大変である。

この時の経験が、開業医となった今に生きていると思う。

当院の職員の中で男性は私1人。完全に「女性の職場」である。

小さいお子さんを子育て中の職員も多い。そのため、急な発熱や学校行事などで休まざるを得ない場面が増えてくる。

私は、その全てを快く認めるようにしている。もちろん業務的には厳しくなる場合もあるが、残った職員でカバーし合える関係を作るのが大切だと思っている。「困ったときはお互い様」が合言葉。「働きやすい職場」とは、「休みやすい職場」だろうと思う。

そして、「家庭の充実なくして仕事の充実なし」とも思う。

子供と一緒に過ごせる期間なんて、長いようであっという間である。子供としっかりと向き合い、家庭生活を充実させてこそ、さらにいい仕事ができるはずである。

男性の育休取得率はなかなか上昇しないが、たとえ1~2週間の短期であっても、仕事観や人生観を変える時間になり得ると思う。

世の男性陣よ、育休を取ってみよう。きっと違う風景が見えてくる。女性からのウケも良くなる?

世の経営者よ、男性職員に育休を取らせてみよう。きっと職場の雰囲気が変わってくる。お互いの立場を尊重し合える職場に…。