客論

地域医療はまちづくり

「地域医療はまちづくりの一環である」―。

私が初めてこの言葉を聞いたのは、大学5年生の地域医療実習の時。当時西郷村立病院長だった金丸吉昌先生のこの一言が、私の医師として進むべき道を指し示してくれた。

学生時代は、大学のある清武町中野神社の神輿復活に携わった。地元の和太鼓チーム「若武会」に入り、地域の祭りや高齢者施設の慰問にも回った。地域の皆様と触れ合い、医療に対する想いを肌で感じることができた。

外科医となったが、地域医療やまちづくりへの想いが大きくなり、「これからはまちを手術する」などと大きなことを言って6年前に妻の出身地である延岡市大貫町で開業した。

金丸先生の言葉を理念に掲げ、開業の日のインタビューでは「将来は診療所の駐車場で祭りや朝市を開催できるほど地域に溶け込む診療所を目指したい」と答えた。

地域の盆踊りや住民集会には出来るだけ顔を出し、商工会議所や観光協会にも加入して地域の行事やイベントに積極的に関わった。

幸い、地元には住民同士のつながりが強く残っており、女性部を中心として「診療所朝市(先日開催100回を達成)」を始めたり、人生の終末期すなわち「おしまい」について考える勉強会「しまい塾」を立ち上げたりすることができた。

診療所移転の際には患者さん達にも引っ越しを手伝ってもらい、上棟式では差し入れの餅米180㎏分の餅をまいた。

毎月1回「百円居酒屋」として診療所の2階を開放し、どなたでも気軽に立ち寄って酒を酌み交わしてもらい、医師ではなく一人の「人間」としての触れ合いを持つ取り組みももう5年も続いている。

「地域医療」の目指すものとは何だろうか?

それは、「地域に暮らす全ての人々が元気に過ごし、幸せになること」である。

では「まちづくり」は一体何のため?

これも「そのまちに暮らす全ての人々が元気で幸せになるため」ではないだろうか。

であれば、地域医療もまちづくりも、目指すものは全く同じである。たまたま「医療」という側面を担っているに過ぎない。

ただ、地元の人も住まない、愛さないような地域に医師が来るはずはない。一方、医療が充実しないと住民も安心して住み続けられない。その意味では「医療」と「まちづくり」は車の両輪であると言えると思う。

「地産地消」という言葉がある。私はこれを「地産地生(しょう)」と読み換えたい。「地域で産まれ、その地域で生きていく」という意味である。さらにその先には「地産地死」がある。「地域で産まれ、その地域で人生を終える」ということだ。

そのまちに産まれ、暮らし、老い、病気になって人生を閉じる…。そこに人生の喜びや悲しみ、苦しみや楽しみがあり、それら全てをひっくるめて幸せを感じることができる…。その人の想いや生き様が次の世代に受け継がれていく…。

そんな地域を目指すのが「地域医療はまちづくり」という言葉の真意ではないかと思う。

「地域医療」とは、まちづくりそのものである。