客論

待ち時間が増えて嬉しい

今年のインフルエンザの流行はすさまじかった。

当院でも、多い時は午前中だけで100名を超す患者さんが来院された日もあった。昼食も満足に摂らず対応したが、それでもどうしても待ち時間は長くなり、2~3時間以上お待たせする結果となった。

「三時間待ちの三分診療」と揶揄されるほど、病院の待ち時間は長い。なぜだろうか?

私が考えるに、病院での診察は「便器がひとつしかない公衆トイレ」に例えられると思う。

全ての利用者(患者)は、ひとつの便器(医師)を使うしかない。当然行列は長く伸びることになる。短時間で用を足す人もいれば、長時間居座る人もいる。誰が短くて誰が長居するのか、並んでいる段階では互いにわからない。

時には「漏れそう!」などと言って順番を抜かして(救急搬送されて)、トイレに駆け込む人もいる。

パンツを脱ぐのに時間が掛かる人もいるし、トイレの使い方に戸惑う人(診察に介助が必要な人)もいる。

「トイレまで行けないので、家まで便器を持ってきて」と言われれば、便器を抱えてご自宅を訪ねることもある(すなわち「往診」)。その間、公衆トイレは「便器不在(医師不在)」となり、行列はストップすることになる。例え予約をしていても、なかなか予約通りにいかない所以である。

便器の数(医師数)を増やせば解決するだろうが、そう簡単には増やせない。

では、どうすれば待ち時間を減らすことができるだろうか?

まずは、できるだけ公衆トイレを使わず、自宅のトイレで済ませることである。これは、「すぐ病院」ではなく、自己の体調管理や予防に力を入れ、「病院に行かなくてもいい体づくり」に通じる。

次に、できるだけ短い時間で用を足す(診察が効率よく終わるように協力する)努力が必要である。すなわち、自分の症状や質問を的確に伝えるためにメモを用意したり、複数の医療機関に掛かっている場合には「お薬手帳」を必ず持参してほしい。

受診の際は、脱ぎ着しやすい恰好でおいでいただくことも重要である。それにしても、なぜお年寄りはあんなに重ね着をするのかと思う。これまでの最高記録は「上7枚、下5枚」。思わず「まるで十二単ですね!」と言ってしまった。健康診断なのにボディースーツを着込んで来る方もいる。

我々も、できるだけ待ち時間を減らしたいと思っている。しかし、丁寧な診察や、じっくりお話を伺う時間を確保しようとすれば、どうしても待ち時間は長くなる。であれば患者さんも、効率よく診察ができ、少しでも待ち時間が短くなるように協力していただきたい。

ある時、開院当初から通院される患者さんに「待ち時間が長くなってごめんなさいね」と言ったところ、「私は待ち時間が長くなって嬉しい」という意外な言葉が返って来た。理由を尋ねると「待ち時間が長くなるということは、それだけ先生の患者さんが増えてきたということでしょ? だから私は嬉しいんです」と答えられた。

まさに医者冥利に尽きる言葉である。医者も患者も、ともに心を通じ合わせ、気持ち良く診察を終える関係でありたいものである。